作り手紹介

京友禅が生まれるところ
COLUMN


「技」も「遊び心」も本気で貫く―和晃苑

多彩な作風の本格型染め

 和晃苑さんに伺ってまず驚いたのは、社長はじめ職人さんたちがみんな若く活気に満ちていることでした。板場で帯を染めている職人の保田海世さんは、なんと20代。50代の職人さんを若いと感じるほど高齢化がすすむ友禅の現場において、20代が板場の第一線で活躍している姿はなんとも新鮮です。また、デザイナー兼広報を担当している大塚浩人さんも20代で、写真や動画による情報発信に熱心に取り組んでいます。和晃苑では、撮影のためにドローンまで導入したのだそう。
「これで板場を上から撮影しようと思ったんですが、ドローンは高さが必要で上にあげている板が邪魔になって撮れなかったんですよ(笑) 他の活かし方を考えているところです」と朗らかに話してくれたのは、和晃苑代表取締役社長の木村和晃さん。木村さんは50代前半で、和晃苑では最年長。社名と下の名前が同じですが、両方名付けたのは先代である木村さんのお父様なのだそう。2002(平成14)年に木村さんが会社を引き継ぐとき家業は別の社名に変わっていましたが、思い切って自分と同じ名前の昔の屋号に戻して後を継いだそうです。

 和晃苑の作品はバラエティ豊かですが、そのどれもが技術の高さを感じるものばかり。なかでも圧巻は、大名行列や浮世絵の人物画模様など、型紙を70回以上も染め重ねる総柄着物でしょう。一方カジュアル路線も守備範囲が広く、たおやかな草花模様などの古典柄はもちろん、パイソン柄やマッチ柄といったポップな意匠まで、着る人の心をくすぐる作品が揃います。
「吉兵衛工房という屋号で、小売店や百貨店に売り場をいただいています。『吉坊』という帯揚ブランドもあり、現代着物のコーディネートにぴったりくる他にない帯揚を提案しているんですよ」
 木村さんの言うとおり、珍しい帯揚の数々は見ているこちらも楽しくなるものばかり。素材の風合いもよく、細やかに濃淡やボカシがはいった繊細な手染めも魅力です。おもちゃ柄や千社札柄などは昔着物の愛らしさがあり、コーディネートのポイントになりそう。一方、人気のネギ柄は絵画のように緑の色が何色も使って表現されていて、飾っておきたいほどの美しさ。身につけると胸元にネギがストライプ模様で見えるしかけです。一部に大ファンがいるというスイカ柄の帯もそうですが、品物自体は一見楽しくてポップだけれど身につけると本格的な手染の美しさが前に出て、「上品でありながらちょっとした遊び心が垣間見える」絶妙な仕上がり。和装の魅力、楽しみ方を知り尽くしたプロの仕事だと感心してしまいます。大正モダンの着物展などにいくと遊び心に思わず頬が緩む着物や帯、襦袢などに出会いますが、和晃苑は令和の今にそんな心意気を継承しているのでしょう。

 

「幻の技法」を守り継ぐ

 和晃苑の技術力を表すもうひとつの技が、張りのある志毛刷毛(しけばけ)に染料を含ませて生地に直接線を引く「志毛引染(しけびきぞめ)」です。髪の毛のように細い線がひけるようになれば一人前といわれ、独自の刷毛づかいや感性を必要とする難しさから「幻の技法」ともいわれているのだそう。縦縞やよろけ縞だけでなく、小さな渦や蜘蛛の巣の模様も描くことができ、他にない表現で和晃苑の代表技法のひとつになりました。 
 工房を拝見すると、職人の堀田基行さんが刷毛を手にとり、後ろ向きにゆっくり歩きながらよろけ縞を染めていました。染めるスピードや刷毛の角度、染料の具合などに慎重な調節が必要だといい、見事な職人技に圧倒されます。


  「志毛引染は難しい技法ですが、専門にされていた高齢の職人さんから引き継ぎました。刷毛一本一本に癖があり、染料によって色のつき方が変わり、湿気にも左右されてしまうすごく繊細な染めです。技術を体得するのはもちろんなのですが、土台となる板ひとつでも染まり具合が変わってしまうので、ずいぶん試行錯誤したんですよ」
と木村さんはいい、大事な道具である志毛刷毛自体も、大変貴重なものなのだと教えてくれました。
「志毛刷毛は、サンバーという鹿の夏毛と尾州ひのきの柄でつくられています。サンバーの毛は毛先が長くコシやハリがあり、根本は染料を含みやすくて、志毛引染に最高の素材なんです。でもワシントン条約によって輸入が禁止されてしまったので、新しいものをつくることができません。僕らは1973(昭和48)年につくられた刷毛を解き、そこから作り直したものを使っています。つくり直してくれる職人さんもご高齢なので、本当に貴重な刷毛なんです」
 さまざまな努力を経て和晃苑でも木村さんや堀田さんなど数名の職人さんが染められるようになったそうですが、今では伝統工芸士である堀田さんが専属で担当しているのだそう。堀田さんは木村さんの幼馴染で、やはり家業が染屋さんだったそうです。
「堀田も僕も、家で親や職人さんたちが染めているのを見て大きくなったんですよ。幼い頃から感覚を身につけているのが僕らの強みですね」

 

仲間を大切に、経営で挑戦していく

 和晃苑のメンバーは他にも、桶絞りをしていた染屋の息子さんや呉服問屋の息子さんなど、和装関連の精鋭が揃っています。国内を飛び回り誂えの注文を受けてくる販売担当も4名いるのだそう。こうした個性あふれるメンバーを率いる木村さんが見据えているのは、和晃苑の確かな技術を活かした次なる挑戦です。
 そのひとつが手染め体験の本格的な事業化でしょう。工房の工事にも取り組み、120名を収容できる広い体験スペースと吉兵衛製品のギャラリーをつくりました。体験の内容がまた驚くほど充実しており、Tシャツ、トレーナー、トートバック、巾着、前掛け、ハンカチ、風呂敷、扇子にうちわとバラエティ豊か。図案もたくさんの柄が用意されています。着物好きなら体験の後にギャラリーでお買い物できるのも嬉しいところ。うまく条件があえば、オーダーも可能になるかもしれません。工房体験はさまざまな染屋さんで実施されていますが、ここまで大掛かりなものは他になく、木村さんの本気度が伝わってくるようです。
「みんなを食べさすのに必死なんですよ」
と木村さんは笑いますが、染めを生業とする家に生まれ育った矜持と仲間への熱い思いはゆるぎがなく、高い技術で本物の染めものをつくり、楽しく挑戦を続けていくことに迷いはありません。それは本物の技術に遊び心が宿る和晃苑の染めものづくりと根っこの部分は、同じこと。実に和晃苑らしい、挑戦のあり方なのです。  
                                 (文:白須美紀 写真:田口葉子)

 

      

                     


                           

PROFILE
右から堀田基行、保田海世、
木村和晃(代表取締役社長)、
大塚浩人、井上盛勝、森田新一郎
㈲和晃苑
住所
京都市右京区西院東貝川町71-1 3F
TEL
075-315-9990
HP
https://kichibe.com/
SNS
  • Instagram
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