作り手紹介

京友禅が生まれるところ
COLUMN


京友禅の魂を受け継ぐ、珠玉の訪問着

京染せい山

感動を呼び起こす、芸術性あるきもの

 目の前で次々着物が広げられるたびに、思わずこぼれるのは感嘆のため息。遠目で1枚の絵のように眺めてもうっとりと見惚れてしまうし、近づいて細かな手描友禅の表現に見入れば、静かな感動がじわじわと胸に広がっていきます。町やお茶会で訪問着を見かけて「ああ、綺麗だな」と見惚れることはあっても、感動するまでのものに出会うことはそうありません。

「僕がどこかで見て『ああ、ええなぁ』と心動かされたものを着物にしているんですよ」

と話すのは、これらのきものを作った京染せい山代表の山田容永(やすのり)さん。京染せい山の着物を見るたびに感動するのは、根底に山田さんの感動が存在しているからなのかもしれません。

「これは『滝桜』という着物です。福島県三春町にある推定樹齢1000年以上といわれる滝桜を観て感動したのをきっかけに製作しました」

 糸目を置かず絵のように描く素描(すがき)と生地を濡らして描く濡描(ぬれがき)の友禅で表現されたきものは、モノトーンなのに言いようのない華やかさ。水墨画のように描かれた幹のまわりをグレイッシュな色目の花びらが滝のしぶきのように跳ね、泡のように舞い散り、見ているうちに夢幻の世界に引き込まれてしまいそうです。

 この「滝桜」は、平成17年の京友禅競技大会でトップ賞ともいえる「経済産業大臣賞」を受賞したのだそう。「滝桜」以外でも何度も競技会で経済産業大臣賞を獲得しているといい、山田さんの実力が伝わってきます。

 京染せい山は、工房を持たず職人さんたちに仕事を依頼してきものを作る「染匠」です。イメージした絵柄を図案家に伝えて下絵を描いてもらい、それを友禅職人に渡して染めてもらいます。金を蒔いたり刺繍をしたり絵羽に仮縫いしたり、完成までに十数人の職人さんたちに仕事をしてもらうのだそう。

「最初に描いたイメージをずっと貫き通し、十数工程ある職人さんたちすべてに自分の感性や感覚、気持ちを伝えていくことが大事です。説明したときより良く上がってくるときもあるし、全く逆もあります。ときどき、工程を経るごとにどんどん良くなっていくきものがあって、そのときはすごく高い完成度になるんですよ」

 山田さんによれば、いろいろな工程で職人さんたちとやりとりするなか、さらに良い意見や思ってもいなかったアイデアをもらえたりもするのだそう。自分で最初に思い浮かべたように完璧に形にできたものが100点満点だとしたら、職人さんとセッションすることによって、100点が150点や200点になるのだといいます。

「それが染匠という仕事の醍醐味ですね」と山田さんは言い、「これも良い結果になりましたね」と、かすみ草のきものと図案を見せてくれました。京染せい山では、かすみ草やミモザなどの洋花を大胆に配した訪問着もあり、現代的だけれど上品で優しい雰囲気が女性たちの心をつかんでいるのです。しかし図案を見ても、仕上がりのイメージなど全く想像もつきません。あらためて、染匠さんと職人さんの阿吽の呼吸に驚かされるのでした。

 

京友禅の伝統を受け継ぎ、新しい挑戦へ

 京染せい山は大正14年創業。山田さんのお祖父様がはじめた染色工房が起源です。山田さんが幼い頃は木屋町御池に自宅兼工房があり、2階には住み込みの職人さんがいて一緒に暮らしていたのだそう。その当時から山田さんは、職人さんたちが臈纈染(ろうけつぞめ)や友禅をしているところを見て育ったのだといいます。またお母様は臈纈染の作家で、染色工芸界のパイオニアといわれる皆川月華のお弟子さんでした。山田さん自身は大学では経済学部の出身で絵の勉強を一度もしたことがないそうですが、幼い頃から高いレベルの染色作品に囲まれて成長したことは、染匠の仕事や作風に大きく影響しているでしょう。

 最近新しく手がけたのは、ウズベキスタンのサマルカンドにあるグリ・アミール廟をイメージしたきもの。作風の広さに驚きますが、どのきものも上品で華があるところが共通しています。明治から昭和にかけて発展を続けた京友禅のDNAが、山田さんにもしっかりと受け継がれているようです。

 お父様が62歳で亡くなり30代で三代目を継いでから、山田さんは弟の順男(のぶお)さんと2人で会社を切り盛りしてきました。そして、3年ほど前からは、大阪の小売店で修行を終えた息子の崇介(たかゆき)さんも家業を手伝いはじめています。

 崇介さんが担当するのは新規事業。2022年からスタートさせる、インターネットのオーダーシステムです。

「考えているのは付下げのセミオーダーです。図案と地色と配色を選んでもらって作業にかかり、仕立てまでしてお届けします。全国のお客様に京染せい山を知ってもらうのが狙いです」

クライアントである問屋さんに納品する訪問着とはまた別の、ネットオーダーならではのオリジナル商品を検討しているといいますが、付下げとはいえ京染せい山のエッセンスは必ず宿るはず。訪問着とは違ってカジュアルに着ることもできるので、また別の楽しみ方ができそうです。

「おじいさんの時代、きものは誂えが当たり前やったんですよ。新しい挑戦に見えて、実は昔からやってきていることなんです」 

 2020年に発生した新型コロナの流行は、きもの業界にも大きな打撃を与えました。京染せい山の新事業も、苦境の時代を乗り越える方策のひとつでしょう。心に浮かぶのは、昭和初期の友禅の状況です。その当時も戦争や経済恐慌できもの業界は受難の時代でしたが、戦後活躍する友禅作家や人間国宝の作家たちが修行に励んでいた時期でもあったのだそう。次の時代に花開く種が暗い土の中で根を伸ばしていたのです。当時と同じように、現代のコロナ禍によるきもの不況のなかでも、次世代に花開く種たちの準備が知らず知らずのうちに進んでいるかもしれません。そして、京染せい山の新たな取組みもまた、そんな種のひとつに違いないと思うのです。

(文:白須美紀 写真:田口葉子)

PROFILE
代表取締役 山田容永
株式会社 京染せい山
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