作り手紹介

京友禅が生まれるところ
COLUMN


型染友禅の魅力を、多くの人に伝えるために

安藤染工

ベテラン職人さんたちの凄み

  Instagramのプロフィール画面に並ぶのは、安藤染工で染められた振袖の一部分。豪華な文様に圧倒され、一枚一枚食い入るように見入ってしまいます。ここ数年はシックな色目が流行しているそうで、グレイッシュな赤や紫、緑が印象的です。写真でこれだけ美しいとなると、本物の凄さはいかばかりでしょうか。
 期待を胸に工場に伺うと、ベテランの職人さんたちが、黙々と仕事をしていました。白生地の上に型紙を載せ、染料と糊を混ぜた色糊をコマベラで均質に塗り広げています。

「型染という友禅の技法です。振袖の場合は、何百枚もの型紙を使って1枚の生地に20色以上を染めるんです。振袖は型染のなかで一番技術がいるんですよ」

と教えてくれたのは、工場を案内してくれた安藤染工三代目の安藤充泰さん。安藤染工のInstagramを発信しているご本人です。

 職人さんたちの動きはとてもスムーズで、布もコマベラもまるで身体の一部のよう。その姿に見惚れながら、「美しい物を生み出す人の動きもまた美しい」ということに、気づかされるのでした。

  技術のほかにもうひとつ大事なのが、図案と色です。それを決めるのは安藤さんと社長であるお父様。クライアントである問屋さんと直接取引をし職人さんを自社に抱える染め屋を、型友禅の世界では「上職(うわしょく)」といい、図案と色を決め、職人さんたちに指示する人を「親方」と呼ぶのだそう。いくら染めの職人さんが凄技でも、親方の図案と色が良くなれければ素敵な振袖にはなりません。

「流行に走るのではなく、何十年経っても良さが変わらない普遍的なデザインを大切にしています。振袖以外に子どもの七五三の着物もやっていますので、もともとは可愛い色柄が得意なんですよ。同じ型で色を変えたりもしますが、くすんだ色にするとガラッと印象が変わりますね」

  仕上がりを左右する大事な色を作るのは、絵の具場の職人・竹越貞夫さん。この道45年という大ベテランで、何度もテストしながら指定された色を作り出し、糊と混ぜていきます。驚いたのはその几帳面さ。作業場に並ぶ資料も道具もすっきりと整理整頓されており、それだけで竹越さんの繊細で正確無比な仕事ぶりが伝わってくるようでした。

 安藤染工では、毎年のように京友禅の大会で上位に入賞しており、2017年にはトップである経済産業大臣賞を受賞しています。それらは、ベテラン職人さんたちの高い技術と安藤親子の意匠力の賜物なのです。

型染友禅を守るために活動する

 安藤さんは大学を卒業して5年ほど着物の問屋さんで働き、家業を継ぎました。当時の一番番頭さんの引退がきっかけだったそうです。染め屋として働いて20年になるといいますが、常に考えているのは型染友禅の未来。少子化、レンタル振袖の人気、インクジェット捺染の発展などにより、型染友禅による振袖の生産は年々減っているのだそう。

「常にレベルの高い仕事をしてクオリティを落とさないのはもちろんなのですが、それ以外に大事なのは『知ってもらうこと』だと思っています。InstagramやTwitterで発信しているのもそのため。消費者の方に選んでもらえたら、クライアントである問屋さんの役にも立てますから」

 大切なのは安藤染工のファンを作ること。消費者がいざ振袖を買うときに小売店で「安藤染工の着物が欲しい」と言ってもらえるよう、発信に力を入れているのです。実際にInstagramからの問い合わせもあるそうで、消費者の声に力をもらっているといいます。

    また、同じく「知ってもらうこと」を目的に、2019年から和装以外の自社製品を制作販売する「京都安美堂」の活動も始めました。本物の振袖の布を使った御朱印帳やアートパネル、書家による文字を型染したシールなどをオンラインショップで販売。年に数回百貨店の催事にも出店しており、問屋さんで働いていた若い頃の販売経験が今になって役立っているといいます。百貨店の催事では一度に100点ほどを売り上げたときもあり、見本に持っていった振袖を買ってくれたお客様もいたのだそう。そんな嬉しい反応もまた、安藤さんに勇気をくれました。安藤染工が生み出す型染友禅の魅力は、間違いなく人々に伝わっているのです。

 実際に御朱印帳やパネルといった小さなサイズに切り取っても、型染友禅の美しさは力強く、圧倒的。切り取る部分によって模様が変わるため、どれを選ぶかとても悩みます。それゆえまとめ買いするお客様も多いのだとか。
 友禅シールも振袖と同じ作り方をしているそうで、シルク生地に型染し、蒸して仕上げ、加飾の金加工も施した本格派。印刷のシールとは別次元の仕上がりになっており、気軽な工芸品として人気を呼んでいます。

「下鴨神社の売店と祇園の和装小物屋さんでも扱っていただいており、なかなか好評です。今後も型友禅の価値を理解していただき、応援したいと考えてくださる小売店さんを増やしていきたいですね」

 振袖を身にまとえるのは若いお嬢さんだけの特権ですが、小物になると老若男女問わず手元に置くことができます。素晴らしい工芸品を日々眺めることができるのは、買う側にとっても嬉しいところ。ここから型染友禅が知られ、安藤染工のファンが増えていくのでしょう。実際に海外での販売の声もかかり始めているといいます。

 安藤染工の職人さんたちはベテラン揃いなので、後継者の育成も喫緊の課題。若手が安心して生涯の仕事にできるようにするのも、親方の役割です。工場で働く職人さんたちの素晴らしい仕事ぶり引き継ぐ若手を雇い育てるためにも、安藤さんはまだまだ挑戦を続けていきます。

(文:白須美紀 写真:田口葉子)

 

PROFILE
安藤充泰
安藤染工
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