京友禅について

京友禅の技法と作品
TECHNIQUE


ぴくちゃーはんがぞめ ピクチャー版画染め

特殊染め技法

ピクチャー版画染めは、カラー複写機を利用して容易に染工場で独自に柄作りが可能になり、重要な図柄が外部に漏れる心配がなくなった。
図版の作品は、染色図案から写し取った洋花模様を箔地の絹に転写したもので、地色も転写で染めたものである。

さいけつぞめ 彩纈染め

特殊染め技法

亀裂の入る特殊な糊を使用した亀裂染めの一種である。蝋の亀裂とは異なり均ーな細かい亀裂に特徴がある。
図版作品は黒糊で柄の一部を型置き後、地型で伏せ糊し、亀裂させる所に白の彩瀬糊を型置き、乾燥亀裂すると赤の色糊で型置きし、黒糊で扱き、染めた。

ひゃくしょくなせん 百色捺染

特殊染め技法

この染色法の原理は千歳飴がどこまでも同じ模様が現われるように、固形色糊で模様を作る特殊な技法。
図版の作品は多数の色糊を重ね合わせて練り込み、ローラーで多色の層を作り、この断面を組み合わせて模様をモザイク状に構成して転写染めしている。

ひっこぼかし 挽き粉暈し

特殊染め技法

染料液を引染めし、乾燥前に挽粉に染料液を吸収させ、淡く斑点状に染め出す技法。
図版作品は、裂取り模様の上から全面を紫色で引染め、その染料液がまだ乾燥しないうちに、挽粉を篩で均ーに撤き、炙り車で乾燥し、挽粉を払い落とした独特な染物。

うのはなぞめ 卯の花染め

特殊染め技法

食用豆腐の雪花菜(おから)を用いた特殊な染法。
図版の作品はまず淡い鼠を引染め、おから落としで生地全体を斑染めにする。次いでかもめを蝋描きし再ぴ鼠の引染めをする。今ー度かもめを蝋描きし淡ピンクで染め上げ、淡雪中に飛翔するかもめを表現している。

おしもようぞめ 押し模様染め

特殊染め技法

型友禅と木版を併用加工する技法。
図版の作品は紫に地染めした生地に萩を金泥で木版染めして、青の葉と、鈴虫は型の摺り暈しで染めている。

かたおとしぞめ 型落し染め

特殊染め技法

図版の作品は型染めして伏せ糊後、背景に葉の切型数枚を木の桟などで下駄を履かせて紫色の落し暈しを行う。

おとしぞめ 落し染め

特殊染め技法

落し暈しは、染め模様の位置と暈しの状態を確かめながら加工ができる。
図版の作品は着尺柄を型紙の摺り込みで染め、菖蒲と鶴の胡粉の位置を部分伏せして後、地の部分に落し技法で霞暈しを施したもの。

あたまずり 頭摺り

特殊染め技法

生地の地紋を生かした技法で、論子や鬼しぼ縮緬の地紋の頭部を加工する染法である。
図版の作品は別織りした小紋調地紋の論子を鼠色に引染めし、—度蒸してから抜染剤で頭摺りして、二度蒸しで白く抜染したもの。
小紋染めとも見える上品なものである。

じもんおこし 地紋起し

特殊染め技法

白生地に織り出された地紋柄を効果的に友禅意匠として、立体感を持たせる技法。
図版の作品は地紋の一部の丸紋に白茶のゴム糸目で地紋を起こし、ブルー濃淡の彩色後、ダンマルで伏せ、地染めして、地紋の周囲を暈し、最後に抜染の頭擦りで仕上げている。

ぴーすかこうぞめ ピース加工染め

特殊染め技法

ピース加工は、その芸術性が高く評価されるようになった。伝統的手法とは異なり、エアーブラシが彩色筆や刷毛の働きをする。
図版の作品は青色に地染めした生地に、金糸目を筒で描き流水の縁蓋の上から金泥をピース加工し、次いで水玉を胡粉と墨でピースする。

ちょうぞめ 蝶染め

特殊染め技法

手描き友禅では表わせない天然の蝶を用いた独創的な染色技法。
図版作品は斜め暈しの地に草花模様を素描き染めしたものに、花に舞う蝶々は蝶の羽を特殊加工して、鱗粉を転写染めしたものである。蝶の体と髭は手描きしているが、天然の蝶の鱗粉が美しい。

このはずり 木葉摺り

特殊染め技法

植物の木の葉を転写する染色を、一般に木の葉染めと呼んでいる。
図版の作品は手芸的な趣の強い木の葉染めを、工芸的な領域にまで高め、友禅染めに併用して金の糸目と摺り箔を加飾し、木の葉を模様の主体にして染め上げたもの。

さんごずり 珊瑚摺り

特殊染め技法

亜熱帯の強い日射しをうけて、鮮やかな光彩を放つ見事な珊瑚が八重山諸島では身近に見られる。この珊瑚を輪切りにして、その断面模様を版として生地に転写する染め技法。
図版の作品は多色で珊瑚文様を拓本式で摺り染め、紫で引染め、暈している。

いしずり 石摺り

特殊染め技法

蝋吹雪より柔らかな綿雪散しの模様を表わす御影石の自然な石肌を巧みに利用した染色技法。
図版の作品は白生地に蝋で石摺りして地色の淡青染め、黄色と青で染め分け、立ち草柄の生型の上から蝋叩きして地の部分を伏せ、赤色を染め重ね微妙な淡紫を出している。

れんかんぞめ 連管染め

特殊染め技法

ガラス筆にゴム管を繋ぎ、口で空気を調節しながらダンマルゴム液を生地に線描きする技法。筒糸目よりも調節が難かしい。ガラス管を連ねて作った連管を使うと流水模様が容易に表わせる。
図版の作品は連管で流水模様を描いた後、霧暈ししたものである。

ごむたらしぞめ ゴム垂らし染め

特殊染め技法

ゴム糊をフリーハンドで自由な曲線を構成する技法。ゴム糊を薄めて使用するので、生地に浸透して浸染にも耐える。
図版の作品は生地全体に筒でゴム垂らしを施して、部分的に赤の染料液を挿し、竹の皮で小帽子絞り後に浸染したゴム垂らしと絞り併用のもの

だっくぞめ ダック染め

特殊染め技法

ダックはフッ素系のまったく新しい着色防染剤で、手描きや型染めに簡易な染色法を提案した材料である。
図版の作品は法隆寺にあるべルシャ模様を今様にアレンジして型染めしたものである。柄の暈しの部分は点彫りのスクリーン型で染め出している。

だんまるがき ダンマル描き

特殊染め技法

ダンマルゴム液で模様を描く液描き技法の—つ。他の防染剤にない半防染効果に特徴がある。この液に揮発油に溶ける染料を混合すると着色防染ができる。
図版の作品は石楠花。花の藍は筒ゴムで、葉はダンマル描きし、花の色を筆描きして、地染めしている。

のせかこうゆうぜん のせ加工友禅

特殊染め技法

近年に台頭してきた染色の新しい複合加工法である。始めに生地を無地色に引染め、その後に型染め、金彩などで鮮やかな加飾を施す。
図版作品は基本的な柄の輪郭線に戻し樹脂を置き、色の部分は型で染めている。花や葉の暈し、色金の振り砂子などを加えている。

のりながし 糊流し

特殊染め技法

墨流し状の模様を安定させカラフルに染め出す写し技法。
図版の作品は、白い台糊の上から白と赤と緑の写し糊を筒で適当に撤いた後に、櫛状の用具で「のの字や8の字」に掻いて攪拌し、できた模様に上から白生地を当て、転写した孔雀模様の糊流し染めである。

いろながし 色流し

特殊染め技法

色流しは墨流しの技法を踏襲しながら現代に合うように、多色で墨流し模様を表現する技法である。
図版の作品は細長い水槽に黄・墨・青などのレーキで墨流しの流水模様を作り、—反の生地を張り伸ばして、泡などの入らないようにそっと転写染めしたものである。

すみながし 墨流し

特殊染め技法

墨流しを染色に生かしたもの。古法では墨・紅・藍が主な色料だが、染色では各色のレーキ顔料も使われる。
図版作品は古法の風趣を残し、大きな水槽に墨流しの模様を作り、絵羽仕立てした生地を色毎に縁蓋を替えながら、何回かに分けて写し取っている。

ろーらーきかいなっせん ローラー機械捺染

版染め技法

ローラー捺染はその金属凹版の特徴から、同じ柄や暈しを一度に何反も連続して染色ができる。
図版の作品は機械捺染の得意な縦縞柄のバリエーションで紫・赤・青・黒色の4本の彫刻ローラーを機械に掛けて染めたもの、白の部分は彫り残しで表現する。

もくはんろーらーなせん 木版ローラー捺染

版染め技法

木版凸版ローラーの染めは素朴な染め味がある。
図版の作品は白場に白糸目糊置きし、葉を型摺りで染めた後、あらためて鹿の子模様の凸版ローラー特有の陰で、立体感を表現した一風変わった染め着尺である。

もくめおこし 木目起し

版染め技法

自然な板木目の柄を染める技法。木目の凹凸に添わせて生地を張り、その凸部をフェルトなどで摺り染めし、木目模様を染め付ける。
図版の作品は淡赤に地染めした生地を板目に張り、木目に合わせて墨色を刷毛摺り後、色抜剤で頭摺りして白木目を表わしている。

ごむはんぞめ ゴム版染め

版染め技法

ゴム素材を版染めに活用する技法。図版作品は白い花柄と点描をゴム糊で版置き、ピンクと赤で花弁を摺染めて、地紋の小さな花弁の濃緑の部分は淡ピンク色で版押し後に淡緑を引染めている。
ゴム版がゴム糊の揮発で溶けないよう、現在は合成ゴムを使っている。

せきばんぞめ 石版染め

版染め技法

化学的に版作りをする染色では唯一の技法。平面で柄作りをして油性の顔料インキを使う特異な版染めで、印刷独自の精密な柄表現ができる。
図版の作品は縮緬地に墨絵の感覚の図を石版刷りして、淡く地色を引染めした絵画調の作品である。

つちしょうぞめ 槌杵染め

版染め技法

槌杵染めは染料を付けた木口木版で生地に転写する際に、槌を使って叩いて染め付けるので命名された。
図版の作品は平らな御影石の上に生地を延べてテープで固定し、上から木版を当て槌で叩いて模様を染めている。竹の柄がシャープに表現されて清楚である。

ふみこみもくはんぞめ 踏込み木版染め

版染め技法

特異なこの方式は、古くは鎧の染韋として鹿の鞣韋に型紙を当て踵で踏み染めた踏込型に原形をみるが、木版による本格的な踏込みでは初の技法。
図版作品は生地に木版を何枚も使って踏込めた民芸調の模様で、素朴で自然なかすれが立体的な効果を発揮している。

もくはんぞめゆうぜん 木版染め友禅

版染め技法

木版染めには木質の持つ穏和な感覚がある。
図版の作品は更紗模様の小柄は木版摺り、大柄は手描きで輪郭をカチンで表わし、模様部分を蝋伏せで防染して地色を引染める。その後に脱蝋してカチンの内側をすべて手彩色で繊細に染め分けている。

てずりもくはんがぞめ 手摺り木版画染め

版染め技法

木版画摺りと同—の摺り技法。各種の木版を組み合わせて柄を構成し、染料液を木版に塗布して生地を載せ、馬棟で摺り染める。
図版の作品は柄のすべてに凸板木版を使い、鼠色の一部分に青色を挿し分けて柄を摺り、地は板目を生地に摺り染めている。

きょうけつぞめ 夾纈染め

版染め技法

爽纈染めは我が国で最も古い版染めでありながら、いままで解明されなかった染法である。
図版の作品は彫刻した凸版型を上下2枚使い、その間に湿して畳んだ生地を挟んで締めつけ、染料液を版の上部の多孔から色毎に注ぎ込み、下からその液を吸引し染めている。

べにいたぞめ 紅板染め

版染め技法

紅板締めは木版染めの中でも特異なもので、外国にはない染法である。
図版作品は水面に飛翔している鶴をデザイン化した紅板締染めで、生地が版板の間で折り畳まれて上下対象に2倍に伸ぴがある模様になっている。版板の厚みがじゃまにならない柄である。

ろうけつはんぞめ 蝋纈版染め

蝋纈染め技法

木版や金型の凸版を使った蝋染めは世界各地で行なわれている。
図版の作品は耐熱性の石膏ボードを利用し、菱形蓮根状に彫刻した版を使って、蝋を生地にスタンプし、赤と黄の染料でピース暈しをした後、再ぴ蝋をスタンプし別色を染めている。

きれつぞめ 亀裂染め

蝋纈染め技法

亀裂は蝋纈美の—つで、柄の中に巧みに表現するのが特徴である。
図版の作品は縦の細い蝋線と横の帯ぴを各色に染める過程で、パラフィンと木蝋の配合蝋を規則正しく人為に割って整然とした亀裂美の縞模様を染めだしたものである。

かたろうけつ 型蝋纈

蝋纈染め技法

蝋紅型とも称する型と引染めを併用する特殊技法。
図版の作品は紅型調の民芸的な模様で、蝋に似た防染液で模様糸目を型で置き、5色を8枚の型で染め分ける。次に模様を総伏せして引染めで地色を染める。染料液の糸目のふち溜りが素朴な美しさを感じさせる

のりおこしろうぞめ 糊起し蝋染め

蝋纈染め技法

型摺り友禅と蝋染めとを組み合わせた技法で普通の型染めにない表現ができる。
図版の作品は地張りした生地に法隆寺文様を型摺り後、地型で地を白糊で埋めると全面に蝋伏せ水洗で糊の部分を落として茶で地色を染め、次に裏側から蝋引し、表から黒を引染める。

ろうけつしぼり 蝋纈絞り

蝋纈染め技法

蝋絞りは特異な技法で京都でも技能者は少ない。
図版の作品は下り藤の花の部分を淡彩に蝋で染め上げ、葉の部分をその葉脈に添わせて蝋絞りで表現している。柄の中央部分の蝋絞りの葉の中に白い花が入り込んでいる卓越した技術の作品である。

ろうたたき 蝋叩き

蝋纈染め技法

蝋叩き加工は蝋染めで不定形な斑点を現わす技法である。熔融蝋を種々の叩き用具に付けて所要の生地の位置につけて防染する。
図版の作品は叩き加工のみで京都北山の風景を表現したもので、木の梢は生型を使って蝋を叩き、茜で暈し染めしたものである。

ろうふぶき 蝋吹雪

蝋纈染め技法

蝋染め独特の加工で、群小蝋を散らして吹雪で、蝋の強さを和らげる効果を出している。
図版の作品は笹の黒と白の部分を糊置き、吹雪加工して水洗で糊を落とし、笹を色挿し後に蝋伏せする。鼠に引染めし、再ぴ鼠部分を蝋伏せして黒に染めている。

ちゃんちんかきさらさ チャンチン描き更紗

蝋纈染め技法

ジャワの手描きバティックはチャンチンと称する小さな線描き器具を使う。我が国では友禅用に電融蝋ぺンが開発されている。
図版の作品はチャンチンで線描き後、赤と深緑を彩色して蝋伏せ、次に藍の部分を染める。仕上げに純金泥描きで金更紗としている。

ろうはんぼうせんがき 蝋半防染描き

蝋纈染め技法

蝋の半防染効果は、筆描きの熟達した人の腕の見せ所でもある。染め着尺の場合は草稿を写すようにして蝋を筆描きする。
図版の作品は小花の点描はゴムで筒描きし、花と唐草を勢いよく半防染用の蝋で描き、花の部分に再ぴ拾い描きで完全防染部分を作っている。

ろうせんがきゆうぜん 蝋線描き友禅

蝋纈染め技法

蝋の線描きは筆描き蝋染め。基ホ技法で、下絵か草稿を代用青花か鉛筆で生地に写し蝋線描きをする。蝋はすぐに冷えて固まるので、蝋線描きは特に熟練が必要。
図版の作品は蝋染めには珍しい線揚げのみの御所解き模様で仕上げている。

ろうせきだしゆうぜん 蝋堰出し友禅

蝋纈染め技法

蝋染めは手描き友禅のように分業制でなく、作家が総ての加工を行うので個性的な作品ができる。
図版作品は白い地の部分を堰出し蝋で描き伏せ、縁蓋して蝋で吹雪と叩きの後、淡青を染め、部分伏せして木の陰を染める。葉枝を暈し、最後に木の幹を染めている。

ろうけつゆうぜん 蝋纈友禅

蝋纈染め技法

友禅と蝋染め技術術を集めて染められる蝋染めの最高級といえる染色技法。
図版の作品は抽象化した木の輪郭線をゴム糸目で描き、枝葉に蝋描き亀裂、その部分に挿し友禅後、蝋伏せしバックに蝋吹雪を施して刷毛暈しで染め重ねた蝋描き友禅の逸品である。

からしぼりゆうぜん から絞り友禅

絞り染め技法

型友禅で染め上げた辻ヶ花のような絞り柄の部分を、後で絞ってその絞り跡を生地に残す技法である。
図版の作品は菊の花と葉を絞り模様で表わし、地色部分も青の濃淡段落ちの型摺りで染め、この菊花と葉と陰を「部分から絞り」して、蒸しを施し仕上げている。

しぼりゆうぜん 絞り友禅

絞り染め技法

江戸時代の高級友禅染めには鹿の子絞りの入ったものが多く見られる。
図版の作品は優美な松・橘・藤を本友禅で染め上げ、鹿の子絞りを鼠と黒に染め分けて湯伸し後、黒地と鼠の部分に小紋型で摺り箔を施し、梅と菊を金駒と平縫い刺繍で仕上げている。

つじがはなぞめ 辻ケ花染め

絞り染め技法

幻の染め辻ヶ花の再現は困難であった。
図版作品は青花の下絵に沿って糸を縫込み、流水部分を縫締絞りにして地色を染め、その後に花や葉、藤の一つ一つを帽子絞りに、また辻ヶ花の取形を桶絞りで文様を染める。葵と櫻の葉は各々逆帽子で染め、墨と金で描く。

かたずけあしぼかし 型付け足暈し

暈し染め技法

友禅模様には多くの暈し手法が、模様を引き立てる役目を果たしている。
図版の作品は摺りと写しの併用の型染めで格調ある京の時代祭の行列を染め出し、仕上げに金加工を配した上品な黒留袖で、模様と黒地色の境界を足暈しで柔らかさを表現している。

かさねいろぼかし 重色暈し

暈し染め技法

暈しの染めの中でも手数のかかる技法である。
図版の作品はまず地入れ液に淡いクリーム色を混合して地入れし、炙り車で乾燥後、水・色・暈し刷毛を使い分けて暈し、中蒸し後、青・緑・黄・紫色をそれぞれ重ねて暈し、最後に本蒸しをかけて仕上げる。

えばぼかし 絵羽暈し

暈し染め技法

暈しは染めの染料液の自然な惨みを利用した染色法で、友禅染めに柔らかな表現を与える技法である。
図版の作品は京都東山と見られる冬枯れの朝焼け風景の山稜と雲を暈し染め、落葉樹を無線友禅技法で表現した絵羽暈し染めである。

しけびき しけ引き

手描き染め技法

櫛状にそいだしけ刷毛で繊細な縞柄を染め付ける技法で、織り縞と違った優しさを刷毛により多様な縞・格子を表現する。
図版の作品は友禅板に貼った生地に何色ものしけを規則正しく引き、横にオレンジ色を少し引いて変化を付け、上品な着尺柄に仕上げている。

うるしいとめがき 漆糸目描き

手描き染め技法

友禅染めは伝統的技法の他に常に新工夫を生かしている。
図版作品の色漆描きは、漆を糸日に使う手法で、戦前に始まった。色漆は白・黄・赤・青など5〜6色に限定されるがこれを調合して、小筒で模様を描く特異な技法。作品は孔雀を漆糸目描きで表現している。

きんさいゆうぜん 金彩友禅

手描き染め技法

友禅の加飾に欠かせない金彩加工の豊富な技法を主役にして制作された友禅。
図版作品は友禅染めした後に各種の金彩加工を施し、几帳や切り紙・扇面の部分には型を使った摺り箔・切り箔・野毛箔に砂子を散らすなど、金彩の加工技術を駆使したものである。

てがきうつしかこう 手描き写し加工

手描き染め技法

写し友禅の色糊を手描きに応用した技法。
図版の作品は色絵陶器の下絵に合わせて糸目糊を防染部分に置き、次いで写し糊を小筒で拙いて、暈しや影の部分を大小の擦り込み刷毛やスポンジ等で引き伸ばし、暈し・叩くなどして染める今では数少ない染法である。

いっちんぞめ 一珍染め

手描き染め技法

一珍糊は糯糊に比べ粘りに欠けてさくいので、細い線を引くのが難しく、乾燥後、亀裂が入り生地から剥離し易い欠点がある。
図版の作品はこのような欠点を感じさせない裂れ取り模様の手描き更紗で、一珍染めの素朴な味わいがよく表現されている。

たまのりゆうぜん 玉糊友禅

手描き染め技法

鶏卵の卵白を加えた糊を使って模様を防染するので、この名称がある。卵白の加熱固化性質を利用した技法である。
図版の作品は玉糊を筒糸目で描いた「白揚」の紅染めで部分に彩色している。珍品のために屏風に仕立て、玉糊師利七の銘がある。明治期の作。

かきあげさいしきろうけつ 描上げ彩色蝋纈

手描き染め技法

無線描きに蝋防染を併用して、日本画調の模様を染める技法。
図版作品は信州の山あいを描いていている。遠景の山川草木、谷間の屏風岩を濡れ描き、素描きしている。瀑布や谷川などはその後に蝋伏せして、周囲を重ねて彩色するので、模様と模様の境が際立つている。

まるばけゆうぜん 丸刷毛友禅

手描き染め技法

丸刷毛(手描き摺り込み刷毛)を用いて生地に描き染める技法。
図版の作品は濡れ描きと豆描き技法を併用して松・遠山・五重の塔を墨絵を描くような手法で遠近に描きわけて染め上げ後、松の実など要所を金泥で仕上げている。

かきざらさぞめ 描き更紗染め

手描き染め技法

異国情緒に溢れる更紗は、現在も好事家に称揚されている。
図版の作品は古渡り更紗にある笹蔓手と格天井の実物の更紗裂れを座右に見て、手描きで染めている。糸目置きしてベージュに引染め、模様を彩色してこの部分を蝋伏せ、桃色に地染め、金更紗としている。

ろうばんうちだしかのこ 蝋盤打出し鹿の子

手描き染め技法

御所の女官が趣味としていたが、寛永の頃名筆家・寺井養拙斉がこれを見聞して模様染めに取り入れたと伝えられる。
図版作品は友禅模様の糊鹿の子柄の部分を蝋盤に載せて、突出し道具でその部分を蝋盤に打ち出し隆起させ、鹿の子柄を立体的に表現している。

ゆうぜんのりびった 友禅糊疋田

手描き染め技法

糊疋田は緻密な丹念さがその作業に必要である。
図版の作品は波頭に飛翔する鶴を染め出した柄。鶴を盲(目なし)疋田、波の部分は日あき疋田と筒糊で描き分けて引染め後、白揚げした鶴に揉み箔・切り箔を施し、要所に落し箔を散らした品格のある糊疋田。

ゆうぜんてずりびった 友禅手摺り疋田

手描き染め技法

鹿の子模様は、我が国で特に好まれ、疋田模様とも呼ばれ江戸時代から友禅小袖に多用されている。
図版の作品は竹を大胆に文様化した友禅染めの一部に、疋田型を墨で濃淡に摺り染め、竹を赤で表わして地色を緑に染め、金加工で仕上げた若向きの斬新な友禅。

ゆうぜんのりながし 友禅糊流し

手描き染め技法

手描き友禅の一部分に糊流しを併用する染め技法。
図版の作品は水仙の図を本友禅で染め伏せ糊をして着物の形に仮絵羽し、これを別の広い板に液状に近い糊で潮流しした上にせて、糊流し模様を転写して染め上げている。四人がかりの仕事である。

ゆうぜんのりたたき 友禅糊叩き

手描き染め技法

叩き染めは一般に模様背景の変化や部分的な加飾として、手描きではできない斑点状に表現する技法。
図版作品「醍醐の桜」は格調の高い手描き友禅で描き、背景の淡い色霞の部分に彫などの用具を使って白糊や色糊を叩き染めし、その特徴を生かしている。

ちゃやぞめ 茶屋染め

手描き染め技法

茶屋染めは涼風を誘う麻上布に藍を主調色にして、御所解き模様を染めた唯子である。友禅染めの発生より早くに興っており、近世の手描き模様染めには華麗な友禅と風韻豊かな茶屋染めの流れがある。
図版の作品は茶屋染めの古典柄を精巧に復元している。

しろあげゆうぜん 白揚げ友禅

手描き染め技法

友禅染め古法の一つ。生地の両面から模様部分を糊防染して地染めの後、染め残した部分に部分色を施す技法。
図版の作品は麻上布に御所解き模様を引染めで白揚げし、花・葉の部を渋味の彩色と金糸と色糸の刺繍で仕上げている。江戸時代の風情を残す作品。

いろまきのりゆうぜん 色撒糊友禅

手描き染め技法

白撤糊に染料を混合した色撤糊は、表現の多様化を促し、模様の背景を効果的に加飾するのに使われている。
図版の作品は糸目友禅に色撒糊を施している。地入れ後、彩色の前程で全面に濡らした生地に緑とピンクの色撤糊を散布し、乾燥後量暈しめしたもの。

てんびょうしきゆうぜん 点描式友禅

手描き染め技法

点描画法を友禅に取り入れ、新たな表現分野を拓いた技法。点描式の染めは、色糊・染液・ゴム液・蝋を刷毛などに付けて生地にリズミカルに叩くよう表現する。
図版作品「竹叢」は竹の葉を防染して、若草色から縁まで段階的に点描で丹念染められている。

まめがきゆうぜん 豆描き友禅

手描き染め技法

大豆の豆汁を混ぜた墨の染料で、模様をまず墨絵のように描くので豆描きの名称がある。
図版作品の孔雀模様は華やかな彩色に、濃淡の墨色で緩急・強弱をつけた自在な筆勢を駆使し、模様の縁取り輪郭を描き上げ、彩色して仕上を金泥などを描き加えている。

ぬれがきゆうぜん 濡れ描き友禅

手描き染め技法

日本画をそっくり着物に描いたような染色である。糊液で濡らした生地に染料液を含ませた筆・刷毛で直接に模様を描くので、模様の輪郭がはんなりした表現になるのが特徴。
図版の「鯉遊泳」は流水をゴム糊で描き、鯉水面を濡れ描き手法を駆使して染めている。

すがきゆうぜん 素描き友禅

手描き染め技法

生地直接に色料液を筆や刷毛で絵画調に模様を表現する技法。糊糸目は使わないので無線友禅と呼ばれている。
図版の品「地紙散らし」は色留袖のために扇面を糊防染して、四季の花樹を描きだしている。一部に金彩仕上げ・糸目も併用した格調の高い作品。

せきだしゆうぜん 堰出し友禅

手描き染め技法

堰き出しは、模様の輪郭の外側に糯糊で堰の糸目を置き、模糯以外の部分は伏せ糊で全面に埋め、模様の内側に彩色する。このため輪郭線のない模様表現となる。
図版の作品は草花模様を堰出し特有のシエットではんなりした配色を使い、優しく表現している。

かたいとめゆうぜん 型糸目友禅

手描き染め技法

手描きの糸目は、単品制作に適しているが、同じ模様を何反も制作するにはゴム糸目を型置きすることで、手描き友禅の合理化が計れるようになった。
図版の作品は端正な花柄を配した一般向き問着。付け下げや量産する留め袖などによく用いられている。

ごむいとめゆうぜん ゴム糸目友禅

手描き染め技法

友禅目は手描き友禅技法の伝統的な糊糸目に比して、油性の糸目防染のために、模様輪郭の糸目がより際立つのが特徴である。作業性も糊糸目に較べて有利である。
図版の作品は大作菊や葉の濃色暈しが効果的で、輪郭をはっきり表現した大胆な振り袖である。

のりいとめゆうぜん 糊糸目友禅

手描き染め技法

糊糸目は総じて優しい感覚で模様を表わすのが持ち味といわれる。
図版の作品は糊糸目友禅の優雅さで柳の優雅さや花笠の華麗さを表現、糊糸目にふさわしい品格と調和を保っている。地色は引染めして、仕上げ加工で金糸目。金駒繍をあしらっている。

かたえくさきぞめ 型絵草木染め

型染め技法

草木染めは優雅な色調に染め上がるのが特徴。
図版の作品は白い地に防染糊を紗張り型で二度掻きして置き、豆汁で地入れ後、種々の草木の染液を摺込み染めして各種の媒染剤で固着発色後、蒸し・水洗して樹脂系のフィックス剤で後処理している。

きょうびんがた 京紅型

型染め技法

図版の作品は模様・配色に琉球紅型のイメージを残しながら、京友禅の技法を随所に取り入れている。
ゴム糊で型糸目を置く友禅的な手法をとっているが、模様の色挿しは沖縄と同様の摺り込み刷毛で丹念に染め上げており、京紅型を名乗るにふさわしいものである。

いいぞめ 伊予染め

型染め技法

縞柄の変形染色である伊予染めは引き杢目染めと酷似している。同じ縞型で生地を二度染めする技法である。
図版の作品は緑の濃色で立縞を染め、二度目は生地をジグザグに貼り淡色で縞型を置くと杢目柄が自然に表われる。伊予の絣縞を模したのでこの名がある。

しまうつしぞめ 縞写し染め

型染め技法

紺地の縞は粋な柄で、一時大流行した模様である。織縞も多種多様あるが、染めは配色替えができるので好みに合わせて生産できる利点がある。
図版の作品は太。細の白縞に澄の縦編に矢絣を型置きし、青の地色を扱き、濡れ蒸しで染め上げている。

りょうめんうつしこもん 両面写し小紋

型染め技法

両面の異色染めは今でも難しい染法で、種々染色技法がある中で、写し糊による両面染めは現在も行われている。
図版の作品は表面に小紋柄を末入りの防染糊で型置きし、緑の色糊で披き染め、裏面は生地の全面を茜色の扱き糊で無地に染め上げた小紋染めである。

きょうこもん 京小紋

型染め技法

京小紋は江戸小紋よりも歴史は古く、徳川幕府が安定した江戸中期に小紋染めの需要の多い江戸で盛んになった。
図版の作品は京小紋の代表的なもので菊と流水に露持ち笹を染め、型口も分からない高度な技法で上品に染め上げている。鼠の地色は濡れ扱(しご)き染め。

すくりーんゆうぜん スクリーン友禅

写し染め技法

感光剤を均一に付けたテトロン紗を基布に、写真法で作った型で写し染めする技法。
図版の作品は四季の花柄を多色で染め分けた着尺柄で、花弁の暈し部分もスクリーン型による染めである。数十枚の型を使っている。切型と異なる輪郭線が特徴である。

ゆうきがえし ゆうき返し

写し染め技法

小紋や糸目の白揚げと異なり、上から染めた色を半分生地に通して染め付ける技法。
図版の作品はまず金糊で小紋型を置いてから、塁流し柄のスクリーン型を用いて防染カの弱い姫糊で先に型付けし、黄土色と鼠の暈しを縞の地型で色伏せして染め上げた着尺柄。

のりぼかしゆうぜん 糊暈し友禅

写し染め技法

異色な写し友禅。
図版作品は草花や竹垣の模様輪郭を色糸目で置くと、淡色糊(返し糊) に濃色糊(きせ糊)を型でねて彩りを加えた後、その模様全体を白糊で総伏せして上から雲取りの型で葡萄茶の色糊を置く。次に差し刷毛でその色糊を引き出して際を暈す技法。

うつしゆうぜん 写し友禅

写し染め技法

写し友禅は伝統的な型染めを変革して、友禅染めを大衆化した技法である。
図版の作品は糸目柄を白防染糊で置き、金の部分に接着樹脂を置いて、菊の匂いを摺り暈し、残りを多色の写し糊で型置き後、地色は段落ちの型で染めた着尺柄。

しゃずりゆうぜん 紗摺り友禅

型摺り染め技法

摺り込みの変化技法のー種。生型の代わりに紗張り型を用いる。型の紗の目が生地に摺り跡として残り、柔らかな効果を出す。
図版の作品は唐子手の和更紗模様で、模様糸目はカチン摺りで輪郭を表し、地と衣服の部分など全てを紗摺りで染め表わしている。

すりさらさゆうぜん 摺り更紗友禅

型摺り染め技法

中世紀以降の南蛮交易で、異国情緒溢れる染め物を暹羅染め。更紗と名付けて珍重した。
この渡り更紗の柄を模した国産の染め物を和更紗と称した。
図版の作品は数十枚の生型を使い、更紗模様を切り嵌めた世界に比類のない日本独特の更紗染めである。

にじみすりゆうぜん 惨み摺り友禅

型摺り染め技法

摺り友禅の範囲を広ける技法のーつとして、型摺りで惨み染めを表現する技法である。
図版の作品は花の飛ぴ柄地に変化をつけて、渉み摺り技法のみで染め出している着尺柄。幾枚もの型紙の重色効果でフランス印象派の洋回調が巧みに表現されている。

すりびったゆうぜん 摺り疋田友禅

型摺り染め技法

摺り疋田は鹿の子柄を染めるのに最も多く使われる技法である。
図版の作品は鹿の子模・様を4色に染め分けた着尺柄。16枚の型紙を使って、各色濃淡の摺り込み友禅で染めている絞り感覚の摺り疋田で、型紙の枚数が少ないのに絞りの味わいを良く染め表している。

すりぼかしゆうぜん 摺り暈し友禅

型摺り染め技法

摺り暈し染めは型染めにおける挿し友禅と言っても過言でない程、個人差のでる型染めである。
図版の作品は糸目糊置き後、桜の花弁を赤と青とで摺り暈し、菊の葉を墨で暈し、桜と菊の藍に暈しを施して強い赤・黒の写し糊を型置き、鼠で地色を染めたものである。

かちんずりゆうぜん カチン摺り友禅

型摺り染め技法

模様の輪郭線を型糸目で際立たせる技法で、カチン墨を刷毛でまず生地に摺り込んで輪郭線を染める。
図版の作品は、カチンで衣裳と小物の輪郭線を摺り込み、次いで衣裳の柄色を摺り染めした後、柄を伏せ糊置きして地染めをした緻密な衣裳尽しの着尺柄である。

すりきりゆうぜん 摺り切り友禅

型摺り染め技法

多くの生型紙を使って丸刷毛で各色の染料液を生地に摺り込み染めをする技法。原則として惨みや暈しは施さない。
図版の作品は防染糊で糸目を置き、小花の小さい部分を摺り染めし、その部分に伏せ糊置き後、ほかの模様を8色30枚型で摺り染めた着尺である。


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